ゼブラフィシュの行動実験

ゼブラフィシュは、ゲノム配列がいち早く決定された、ヒトと同じ脊椎動物であり、また多産で世代交代までの時間が短いこと、管理が容易であることから、視・聴覚疾患を発症するUsher症候群(Williams, 2008他)やアルツハイマー(Newman, Verdile, Martins, & Lardeli, 2011他)等の遺伝子疾患研究、さらに環境汚染物質・麻薬・神経作用薬物の行動への影響(Sison & Gerlai, 2010他)等の動物モデルとして使用されています。

これまで、ゼブラフィシュを使用した知覚研究や、行動薬理研究、遺伝的差異・年齢差に基づく学習の可塑性の比較研究等では、複数の個体の同時訓練が可能な自動化されたシステムがなかったため、複数の個体の訓練を同時に実施することが困難なT字迷路やシャトルボックス(Darland & Dowling, 2001他)を用いるしかありませんでした(Sison & Gerlai, 2010)。ゼブラフィッシュのオペラント条件づけを用いた研究の最もキィになるテクノロジィーは、わずか数センチの小型魚類であるゼブラフィッシュの強化子(餌)提示装置です。オペラント条件づけでは、訓練対象の反応に対して、その反応が生じたら強化子を提示して強化します。一回の提示量を極めて少なくしないと、すぐに飽和して(満腹になって)、反応しなくなってしまい、訓練がなかなか進まないということが起きます。本研究室では、1)連続80回程度の強化でも飽和が生じないゼブラフィッシュ用フィーダーの開発、2)ファイバーセンサーを用いた微弱反応検出装置の開発、および、3)自動反応形成手続きを利用した反応キィへのオペラント反応の形成により、自動化された訓練システムを開発し(Manabe, Dooling, & Takaku, 2012)、上記の問題を解決しました。本装置を用いて、旧来のモデル動物であるラットやマウスと同様なFR強化スケジュールに特有の反応をゼブラフィッシュが示すことを見いだしました。この装置を発展させれば、自動化された多数回の強化による弁別訓練や反応の分化強化訓練をさらに推進することで、将来的にミュータント間の比較実験や、薬物の効果実験等、様々な研究への応用が期待されます。

また、淡水の小型魚類であることから、飼育設備や実験装置が小型ですみ、比較的小規模の研究室でも実験が出来る点が利点でもあります。

引用文献

Darland, T., & Dowling, J. E. (2001). Behavioral screening for cocaine sensitivity in mutagenized zebrafish. Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(20), 11691-11696. doi:10.1073/pnas.191380698

Manabe, K., Dooling, R. J., & Takaku, S. (2013). An automated device for appetitive conditioning in zebrafish (Danio rerio). Zebrafish, 10(4), 518-523. doi:10.1089/zeb.2012.0776.

Newman, M., Verdile, G., Martins, R. N., & Lardelli, M. (2011). Zebrafish as a tool in Alzheimer’s disease research. Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Molecular Basis of Disease1812(3), 346-352.

Sison, M., & Gerlai, R. (2010). Associative learning in zebrafish (Danio rerio) in the plus maze. Behav Brain Res, 207(1), 99-104. doi:https://doi.org/10.1016/j.bbr.2009.09.043

Williams DS. 2008. Usher syndrome: Animal models, retinal function of Usher proteins, and prospects for gene therapy. Vision Res 48: 433–441.